最高裁判所大法廷 昭和43年(あ)2265号 判決 1969年4月23日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人宮里邦雄の上告趣意は、公職選挙法一二九条、一三八条、一四二条は、いずれも憲法二一条に違反した無効なものであるから、これらの違憲条項を適用した第一審判決を正当であるとした原判決の判断は、憲法二一条の解釈適用を誤ったものといわざるを得ないと主張する。
一、公職選挙法一三八条、一四二条に関する論旨について。
公職選挙法一三八条に定める戸別訪問の禁止および同法一四二条に定める文書図画の頒布の制限のごとき一定の規制が、いずれも憲法二一条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和二四年(れ)第二五九一号、同二五年九月二七日、刑集四巻九号一七九九頁、同二八年(あ)第三一四七号、同三〇年四月六日、刑集九巻四号八一九頁)の明らかにするところであり、いま、これを変更する必要は認められない。したがって、公職選挙法一三八条、一四二条に関する論旨は理由がない。
二、公職選挙法一二九条に関する論旨について。
憲法二一条の保障する言論・出版その他表現の自由には公共の福祉のため必要かつ合理的な制限の存し得べきことは、前記当裁判所大法廷判決の明らかにするところである。ところで、公職の選挙につき、常時選挙運動を行なうことを許容するときは、その間、不当、無用な競争を招き、これが規制困難による不正行為の発生等により選挙の公正を害するにいたるおそれがあるのみならず、徒らに経費や労力がかさみ、経済力の差による不公平が生ずる結果となり、ひいては選挙の腐敗をも招来するおそれがある。このような弊害を防止して、選挙の公正を確保するためには、選挙運動の期間を長期に亘らない相当の期間に限定し、かつ、その始期を一定して、各候補者が能うかぎり同一の条件の下に選挙運動に従事し得ることとする必要がある。公職選挙法一二九条が、選挙運動は、立候補の届出のあった日から当該選挙の期日の前日まででなければすることができないと定めたのは、まさに、右の要請に応えようとする趣旨に出たものであって、選挙が公正に行なわれることを保障することは、公共の福祉を維持する所以であるから、選挙運動をすることができる期間を規制し事前運動を禁止することは、憲法の保障する表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限であるということができるのであって、公職選挙法一二九条をもって憲法二一条に違反するものということはできず、論旨は理由がない。
よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石田和外 裁判官 入江俊郎 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 村上朝一 裁判官 関根小郷)